静かに、合成清酒や味醂割りと向き合える「大林」(日本堤)
南千住のガード下に書かれていた一文。ほっとけないらしい。
台東区には「ぼうやー、よいこだねんねしな」な日本昔ばなしをするのに欠かせない吉原、山谷を含む一帯があります。それが日本堤。「あしたのジョー」の舞台となった泪橋もこの一角に含まれており、
街のいたるところでジョー町おこしの気配を感じ取れます。
同時に忘れ去られた昭和も色濃く残っているのですが。ストリートで酒盛り、道を挟んだところのマンション前にラジオを置いて競馬中継なうという、この街ならではの景色もありました。
「人生にやぶれ生活につかれはててこのドヤ街に流れてきた人間たちが、なみだでわたるかなしい橋だからよ」(by 丹下段平)
そんな泪橋交差点の近くに、枯れた風合いが魅力の居酒屋「大林」はあります。
店内は広く、天井は高く、山間の歴史ある民宿にきたのかと思えるほどに旅情感たっぷりな日本家屋。近年、日本堤は安価な宿泊施設が多いことからバックパッカーに魅力の土地となっているそうですが、僕がうかがったときもスーツケースを持った3人組が出てくるところでした。ここで一杯やって、近所に泊まって、仕事の手配師がやってくる未明の山谷を見て高度成長期の日本の裏側を思うのも悪くないかもしれません。
ビールの大瓶をおねがいしたところ、「普通のビールと黒ビールで割ると美味しいよ」と、ラガーと一番搾りスタウト(黒ビール)の小瓶を1本つづ出してもらいました。セルフでやるハーフ&ハーフ。ああ、いいなあ。先にラガーを注ぐか、スタウトを注ぐかで泡の色が違ってくる。ああ、なんかいいなあ。
お通しはタマネギスライス。そこから肉豆腐、マグロの山かけなどを頼みます。あ、肉豆腐おいしい。タレが染み染みしている黒々とした絹ごし豆腐を頂くには日本酒しかありません。そう思ってメニューの札をみると、清酒、清酒、合成清酒(四方春)の文字が。他にも本直し(焼酎の味醂割り)や粕取り焼酎の文字の文字もあります。染みる。
ネット上のレビューを読むに「親父さんが怖い」との印象が強いようですが、「いま豆腐落とさなかった?タレが服についていない?大丈夫?」と心配してくれたり、物静かでとても優しいおとうさんでしたよ。大人数はアウト。騒いでも退場。そういったルールはあるようですが、昭和の雰囲気をツマミに相撲中継の音をBGMに猪口を傾けられる人にはほんとうに良いお店。また、行きます。